事業再生・債権管理Newsletter 2022年3月号を発行いたしました
2022.03.08
事業再生・債権管理Newsletter 2022年3月号を発行いたしました。
事業再生・債権管理Newsletterバックナンバーはこちらからご覧いただけます。
*******************************************************************************************
1. 個人破産における免責判断 (弁護士 村上 寛)
1 破産免責の手続
個人破産の手続においては、破産手続の開始の申立てがある場合、免責許可の申立てもするのが通常である。免責制度は、破産手続による配当を受けることができなかった債務について責任を免れさせることによって破産者の経済的再生を図る制度であり、積極的に不誠実な行為をした者でない限
り、破産者の経済的再生を付与するために免責を与えるべきとの考え方が有力であり、破産管財人は、このような考え方に基づき免責調査を行い、免責不許可事由が存在する場合、裁判所に対してその旨の意見書を提出しており、東京地方裁判所民事第20部(破産再生部)においても、免責不許可事由に該当する事実があっても、その不誠実さの程度が著しい事例を除き、免責許可をしているのが通常である(破産・民事再生の実務・破産編(第4版)595頁)。
①破産者が代表者となっている会社が詐欺的行為を行なっている場合、会社名義での詐欺的行為の被害者が破産者に対して主張する不法行為に基づく損害賠償請求権、②破産者が代表者となっている会社において架空取引、循環取引等に関連する不適切な会計処理が行われ、これらの会計処理が記載された会計書類の内容を信頼して融資を行った金融機関が不正会計処理により融資を実行させたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権、③募集株式の発行に際し、不適切な会計処理が記載された会計帳簿を信頼して会社及び経営株主である代表者との間で投資家が投資契約を締結した場合、投資契約に基づく会計帳簿に関する表明保証違反を理由として投資家が主張する損害賠償請求権等、会社の詐欺的行為等に関連して代表者(破産者)に対して発生する損害賠償請求権について、代表者(破産者)の破産手続において債権届出がなされることがある。
これらの破産債権者は、破産者の個人資産の回収を目的として債権届出をしているが、このような破産者は会社ないし個人資産を隠匿している蓋然性が高く、懲罰的な観点から、破産手続開始決定後の新得財産からの債権回収を望んでいる場合があるので、免責についても積極的に免責不許可の意見書を提出することが多いと考えられる。
このような事例においては、代表者(破産者)の行為と会社による詐欺行為との関連性の濃淡があるため、代表者(破産者)個人の免責不許可事由に該当するといえる事実があるかどうかの判断が難しい事例があり、破産管財人及び破産債権者として具体的にどのような意見を述べるか難しい事例がある。本稿では、「東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情」(判例タイムズ1342号4頁。以下「免責判断の実情」という。)及び「東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情(続)」(判例タイムズ1403号5頁。以下「免責判断の実情(続)」という。)で公表された事案等を参照しながら、破産者が代表者となっている会社の詐欺的行為が問題となっている事案において、破産管財人及び破産債権者として意見を述べる場合のポイントについて解説する。...(続きはPDFをご覧ください)
2. 免責と担保不動産競売(最高裁R3.6.21決定を題材に)(弁護士 山内 邦昭)
1 はじめに
法人が破産した場合、破産手続の終結に伴い、基本的には法人格が消滅することになります。その結果、債務の負担主体が消滅するため、債権も全て消滅することになります。これに対し、自然人(個人)が破産した場合、当然のことですが、破産手続が終結してもその自然人が消滅することはあり
ません(そんなことになれば大変です。)。そうした場合に、配当を得られなかった破産債権はどうなるのでしょうか。皆様の中には、債務が「チャラ」になるというお話を聞かれたことがある方もおられるかもしれません。それはある意味的を射ていますが、法的には少々不正確です。
この点に関し、破産法では、免責という制度が設けられており、免責許可の決定が確定したときは、破産者は、一定の例外(非免責債権)を除き、破産債権についてその責任を免れると定められています(同法253条1項)。この「責任を免れる」という意味に関して、法的には、債務そのものが消滅するという債務消滅説と、文字どおり責任が消滅するのみで債務は消滅しないという自然債務説とが提唱されており、後者が通説・
判例の採用する立場とされています(詳細な議論は本稿では割愛します。)。自然債務説によれば、債務者の債務は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなる1という債務になります(最判平成11年11月9日民集53巻8号1403頁参照)。
このような、免責後の自然債務(不完全債務ともいいます)との関係で、最近、興味深い最高裁判例(最決令和3年6月21日(金融・商事判例1632号46頁)。以下「本件判例」といいます。)が出ましたので、ご紹介いたします。... ( 続きはPDFをご覧ください)